エコネットみなまたは、水俣病の経験と教訓を基盤に、環境と共生する地域社会の実現を目指して活動する団体である。水俣の自然再生や環境保全、資源循環の取り組みを進めるとともに、地元で生まれた安全・安心な産品の企画開発や販売を通じて、持続可能な地域経済の構築に貢献している。環境配慮型の商品やリユース・リサイクルの実践を広めることで、日常生活の中から環境問題を考える機会を創出している点が特徴である。また、水俣病の歴史と向き合いながら、その教訓を国内外へ発信し、環境教育や視察の受け入れなども行っている。被害の記憶を風化させることなく、地域の誇りへと転換し、未来志向のまちづくりへとつなげることを理念としている。自然・人・経済の循環を重視し、小さな実践の積み重ねから社会全体の価値観の転換を促す存在である。
さらにエコネットみなまたは、2023年10月より社会福祉法人くまもと障害者労働センターの事業として新たな歩みを開始した。この体制のもと、障がいのある人もない人も共に働くことのできる場づくりを進めている。障がいのある人々を福祉の対象としてではなく、地域社会を支える「働き手」として積極的に受け入れている点は、同団体の重要な特徴である。環境活動と福祉の実践を分けて考えるのではなく、地域の中で共に働き、共に生活を支える関係を築くことを通じて、持続可能な社会の具体的な姿を示している。
2025年10月25日にエコネットみなまたを訪問した。

〈エコネットみなまた〉から考えるコモンズ農園の実践
エコネットみなまたの活動は、水俣病という深い痛みの経験を出発点にしながら、その記憶を単なる被害の歴史としてではなく、未来へ向けた倫理と実践へと転換しようとする点に特徴がある。環境負荷の少ない商品開発や資源循環の仕組みづくり、地域資源の再評価と発信は、経済活動と環境思想を分断せず、生活の中に組み込んでいく試みである。この姿勢は、田辺市で〈コモンズ農園〉を進め、10年後の「みかんの展覧会」を目指しながら「農園という名のフォーム」を育てている〈コモンズ農園〉の実践にとって、多くの示唆を与える。
第一に学ぶべきは、「記憶を共有財へと変換する方法」である。エコネットみなまたは、水俣病の教訓を地域固有の悲劇として閉じ込めるのではなく、環境問題全体への問いとして社会に開いてきた。そこでは過去の出来事が倫理的資源として現在に働きかける。コモンズ農園においても、土地の履歴や地域の時間を掘り起こし、それを単なる背景としてではなく、参加者が思考を深めるための基盤へと転換していくことが求められる。農園は農作物の生産地であると同時に、記憶や関係性が耕される場であるという自覚が、より強く意識されうる。
第二に、環境と経済の接続の仕方である。エコネットみなまたは理念だけでなく、商品流通や販売という具体的な回路を持ち、思想を日常生活のレベルにまで降ろしている。思想が生活の実践に結びつくことで、持続可能性は単なる抽象概念ではなく、具体的な営みとして社会の中に根付いていく。コモンズ農園においても、みかんの栽培や販売、収穫体験、対話やワークショップなどの活動は、単なるイベントではなく思想の実装として位置づけられる。農園で生まれる小さな循環が、地域社会の価値観の更新へとつながる回路をどのように設計していくのかが重要な課題となる。


さらに重要なのは、エコネットみなまたが環境活動と同時に、社会的包摂の実践を担っている点である。
2023年10月より同団体は社会福祉法人くまもと障害者労働センターの事業として新たな歩みを開始し、障がいのある人もない人も共に働くことのできる場を地域の中に築いてきた。ここでは障がいのある人々が福祉の対象としてではなく、地域社会を支える働き手として受け入れられている。この姿勢は、コモンズという概念を具体的な社会関係として体現する重要な実践である。コモンズとは単に共有される資源を意味するのではなく、異なる立場や条件をもつ人々が共に関わり、働き、関係を築くことで維持される社会的な場でもあるからである。
この視点は、コモンズ農園の実践を考える上でも大きな示唆を与える。農園という場は、農業の生産現場であると同時に、人々が関わり合いながら関係性を編み直す社会的空間でもある。そこでは、専門家や農家、地域住民、子ども、訪問者など、多様な立場の人々が関わる可能性が開かれている。エコネットみなまたの実践が示すように、異なる身体や条件をもつ人々が共に働くことのできる環境を整えることは、コモンズの具体的な実践の一つの形である。農園の作業や収穫の時間、植物と向き合う身体的な経験は、人と人の違いを超えて共有されうる営みでもある。
第三に、被害と責任の問題を曖昧にしない姿勢である。水俣の経験は、自然と人間の関係が経済合理性の名のもとに破壊されうることを示した。コモンズ農園が自然を扱う以上、アートが農や土地に関わることの危うさもまた自覚されなければならない。自然を美的対象として消費するのではなく、他者としての自然とどのように関わるか。その倫理的態度は、エコネットみなまたの実践から多くを学ぶことができる。
さらに、エコネットみなまたの活動は、環境を「問題」としてではなく「関係」として捉え直す視点を示している。環境とは外在的な対象ではなく、生活や身体の延長にあるものであるという理解である。この視点は、私が関心を寄せてきたピュシス的自然観や身体論とも響き合う。農園は単なる場所ではなく、異なる立場や感覚が交差する場として再定義される。みかんの木を育てる時間、香りや触覚を通じて立ち上がる感覚の世界は、人と自然の境界を揺さぶる経験となる。
コモンズ農園にとって重要なのは、エコネットみなまたのように、理念と実践、記憶と未来、環境と経済、そして人と人との関係を分断しない構えを持つことである。農園という「フォーム」は未完成であるがゆえに、関わる人々の思考と行為によって更新され続ける。その過程そのものが、地域社会における新しい公共性の実験となる。エコネットみなまたの歩みは、痛みの歴史を抱えながらも前に進む姿勢を示している。コモンズ農園もまた、みかんを育てるという時間の芸術を通じて、人と自然、人と人とが共に関わるコモンズの場を静かに育てていく実践となりうるだろう。
*本リサーチは、公益財団法人小笠原俊晶記念財団の助成により実施されました。
写真:Tartaruga
