みやざき農園は、和歌山県田辺市大坊地区の高地に位置する柑橘農園で、地域の地形と気候条件を活かした独自の栽培を行っている。大坊エリアは標高約300メートルの南向き斜面に広がり、日照条件に恵まれ、水はけと風通しが良いことから、柑橘栽培に適した環境を備えている。みやざき農園では、こうした自然条件を最大限に活かし、果実を木に成らせたまま越冬させる抑制栽培による「越冬木熟大坊みかん」を主力品目としている。
一般的な温州みかんが12月から1月にかけて収穫されるのに対し、同農園では12月から出荷を開始しつつ、1月、2月、条件が整えば3月頃まで樹上で熟成させる。200日以上の木成り期間によって糖度が高まり、濃厚な甘さとコクのある味わいが生まれる点が特徴であり、「大坊みかん」として地域のローカルブランド形成にも寄与している。
園主の宮﨑元樹氏は、家業の農業を継承して約14年にわたり柑橘栽培に従事してきた。JA紀南青年部部長を務めた経験や柑橘ソムリエの資格取得などを通じて、地域農業の現状を内外に伝える役割も担っている。また、若手農家とともに鳥獣害対策に取り組む「ないがしろ団」を立ち上げ、YouTubeによる情報発信などを通じて地域課題の可視化にも力を注いでいる。みやざき農園は、園主の実践と発信を通じて、自然・時間・人の関係を丁寧に編み直しながら、持続可能な農業のあり方を模索し続けている農園である。
みやざき農園にて宮崎元樹氏ご夫婦にインタビューを実施した。

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〈みやざき農園〉園主・宮崎元樹氏 インタビュー 要約
1. 地域と生産の特徴―木熟みかんという戦略
〈みやざき農園〉の最大の特徴は、樹上で果実を熟成させる「木熟みかん」の栽培にある。一般的な早生温州みかんが12月前後に出荷されるのに対し、同農園では果実を木に成らせたまま越冬させ、1~2月、状況によっては3月まで出荷を延ばす。これは、他産地との真正面の競合を避け、季節性と味の深みを価値に転換する差別化方針である。
この取り組みは現当主の代に始まったものではなく、先代の代から継続されてきたものであり、結果として地域オリジナリティを形成してきた。ブランド化そのものを目的とするのではなく、「待つ時間」や冬季ならではの味わいを重視する姿勢が、「おぼんみかん」といった地域ブランドの維持・強化につながっている。
2.ビジョンと発信方
直販と対話の重視宮崎氏が強調するのは、生産者と消費者の距離を縮めることの重要性である。農協流通を基盤としつつも、そこでは得にくい「生の声」を重視し、個人販売や直接対話の拡充を模索している。「人と繋ぐみかんの絆」「みかんで人と繋がっていきたい」という言葉に象徴されるように、果実そのものだけでなく、背景やプロセスを含めた関係性の構築を志向している。
情報発信の面では、YouTubeを中心とした発信実績と意欲があり、活動ロゴを用いたTシャツや帽子など、可視的な取り組みも進んでいる。地域の若手有志による団体活動とも親和性が高く、コモンズ農園の対外メッセージ形成において重要な基盤となり得る。

3.気候変動の影響とリスク対応
近年の気候変動は、生産現場に明確な影響を及ぼしている。冬季に暖かい雨が降ることで果実の腐敗リスクが高まり、これまで積雪が少なかった海沿い地域でも、ここ5~6年は毎年のように雪害が発生している。
木熟みかんという栽培方針は、こうした変化の影響を受けやすい。
これに対し、〈みやざき農園〉では高酸度(酸味を残す)栽培によって腐敗耐性を高め、前倒し出荷ではなく「腐らない工夫」によってブランドを維持する方針を取っている。また、バナナなど新規作物の試行を「遊び心」を持って行うなど、環境変化への適応と多角化を並行して進めている点が特徴である。

4.労働力と住み込み構想
労働力確保は大きな課題である。平時は近隣住民(高齢化傾向)に支えられ、繁忙期は同世代の若手がスポットで支援しているが、いずれも継続性には不確実性がある。突発的な欠員リスクも高い。
その対策として、空き家を活用した住み込み就労の構想が共有された。大学生等を対象に、就労・学び・生活支援を一体化した仕組みを整えることで、人材確保と地域経済(家賃収入等)の双方にプラスとなる可能性がある。一方で、当該地区は空き家が少なく、先祖代々の所有観から外部提供に慎重な文化があり、耕作放棄地問題とも絡んで実現のハードルは高い。宮崎さんは、農家社会の封鎖性を自覚し、世代交代と横の連携によって変革の可能性を見出している。

5. コミュニティ連携と横のつながり
地域連携の具体例として、若手7名で結成された「ないがしろ団」の活動が挙げられる。鳥獣害対策という切実な課題を起点に、作り方のオープン化や横の連携が進んでいる。一方で、同地区内でも畑訪問には文化的ハードルがあり、名前や圃場を知っていても直接訪問は少ないのが実情である。
JA紀南青年部での経験を踏まえ、地区間交流や見学・対話の機会をコモンズ農園が橋渡しすることへの期待が示された。

6. 販路・農協をめぐる考え方
宮崎氏は農協の役割を現実的に評価している。規格外や低等級を含め「一粒でも売りたい」という生産者ニーズに応える受け皿であり、危機時のセーフティネットとして不可欠である。一方で、直販によって顧客の声を取り込み、価値を伝える必要性も強く認識している。
農薬についても、「農薬=不可」という単純化は実態と乖離しており、安全性や適正使用の現実を丁寧に伝える必要があるとの認識が共有された。今後は直販と農協を併用するハイブリッドな販路設計が検討課題となる。
7.今後の方向性
本インタビューを通じて、対外メッセージとして「みかんが人をつなぐためのプロジェクト」を用いて発信していく方針で合意した。インタビューの継続収集とアーカイブ化・映像化を進めること、地区内外の交流・見学機会の創出にコモンズ農園が関与する方向性も再確認された。一方で、気候変動、労働力、空き家、販路設計といったリスクと課題は引き続き検討が必要である。

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〈みやざき農園〉から考えるコモンズ農園
〈みやざき農園〉が〈コモンズ農園〉にとって重要な参照点となるのは、理念や思想の一致においてではなく、日々の判断や運用ににじみ出る「実践の構え」にある。そこには、農園を完成されたモデルとして提示するのではなく、揺らぎや未決定を抱えたまま運営し続けるための、現実的で持続的な態度が見て取れる。
〈みやざき農園〉の「木熟みかん」は、結果としてブランド化しているが、当初からブランド形成を目的とした戦略ではなかった。地域の自然条件、市場環境、家業の継続性といった複数の要因に応答するなかで選ばれてきた判断の積み重ねであり、暫定的な選択が時間をかけて定着したものである。この姿勢は、完成を前提とせずに運用を続けるコモンズ農園にとって、長期的なプロジェクトの時間設計における実践的な指針となる。
〈みやざき農園〉では強い理念よりも「判断の履歴」が共有されている点が重要である。なぜ収穫時期を遅らせたのか、なぜ農協を完全に離れないのか、なぜ直販を段階的に考えるのか—これらは思想として語られるのではなく、具体的な状況判断の連なりとして説明される。〈コモンズ農園〉においても、参加者や関係者が入れ替わるなかで重要になるのは、同じ理念を共有することより、判断に至った文脈を共有できることであり、その意味でみやざき農園は、運用可能な共有モデルを提示している。
地域との関わり方において、〈みやざき農園〉は「地域」を目的化しない。若手農家による「ないがしろ団」は、地域活性化を掲げるのではなく、鳥獣害という具体的で切実な問題への対処から始まっている。その結果として、人と人の関係性や情報共有が立ち上がっている点に特徴がある。これは、抽象的な「地域連携」を構想するのではなく、共有せざるを得ない課題から関係が生まれるという、〈コモンズ農園〉にとって極めて実践的な示唆を与える。
外部への開き方における慎重さも重要である。〈みやざき農園〉はYouTubeなどの発信を行っているが、可視化や拡張を急がない。内部の納得や地域の信頼関係を優先し、その範囲でのみ外に開く。この姿勢は、アートや研究、教育など複数の文脈に接続していく〈コモンズ農園〉にとって、公開性と内部の持続性のバランスを考えるうえで、現実的な参照点となる。 最後に、環境変化への向き合い方である。気候変動を外的な危機として語るのではなく、酸味を残す栽培や新作物への試行など、小さな応答の積み重ねとして引き受けている点は重要である。大きな倫理的主張に回収せず、日々の選択として環境と関わる態度は、〈コモンズ農園〉が環境問題を扱う際の表現や実践のあり方に示唆を与える。〈コモンズ農園〉が長期的に成熟していくために必要なのは、このような「続け方」の知であり、その意味で〈みやざき農園〉の実践は参照点のひとつである。
写真:Tartaruga、下田学
