大磯農園は、神奈川県大磯町の里山環境のなかで運営されている貸し農園であり、個人が区画を借りて野菜やハーブを育てる場であると同時に、荒廃農地の再生や里山の維持管理を目的とした共同的な実践の場でもある。単なるサービス提供型の農園ではなく、ボランティアを基盤として、参加者がともに考え、ともに手を動かしながら場を育てていく運営形態を特徴としている。

農園は大磯駅から車で約10分の田園地帯に位置し、棚田上部から流れる湧水を活用して、米、大豆、みかんなどを栽培している。参加者は一坪程度の区画を利用し、それぞれの関心に応じて作物を育てることができるほか、農機具や種も共有されており、都市部から週末に通う参加者にとっても参加しやすい環境が整えられている。農作業については、プロの農家による助言や指導も受けられるため、初心者でも継続的に関わることが可能である。

また、大磯農園では個別の畑作業に加え、田植え、稲刈り、脱穀といった共同作業をはじめ、みかんや大豆の収穫、味噌づくり、日本酒づくり、BBQ、ピザづくりなど、農と食を媒介とした多様な活動が行われている。なかでも、無農薬・無化学肥料で育てた酒米「山田錦」を用いた日本酒「僕らの酒」の取り組みは、栽培から加工、共有までを一連の営みとして結びつける象徴的な実践といえる。
さらに、農園内にはテーブルや椅子、かまど、ピザ窯を備えた共有スペースが整備されており、作業後に食事をともにする時間も大切にされている。子どもたちにとっても、草むらや水路、生きものと触れ合いながら自然のなかで遊ぶことのできる場となっており、家族連れを含む多様な参加者が関われる開かれた環境が形成されている。蛍の鑑賞会など、季節ごとの自然環境を体感する機会も設けられている点は、大磯農園が単なる農作業の場にとどまらず、里山の時間や環境を身体的に経験する場であることを示している。

大磯農園は、都市近郊において農的暮らしの実践を共有しながら、農地の再生、里山の維持、食の循環、地域コミュニティの形成を総合的に担う実践の場として位置づけられる。
2023年07月15日に大磯農園を訪問した。

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<大磯農園>から考えるコモンズ農園の実践
大磯農園は、東京から比較的近い湘南・大磯の里山に位置し、都市生活者が週末に気軽に通いながら農に関わることのできる貸し農園である。その特徴は、単に区画を貸し出すレンタル農園にとどまらず、荒廃農地の再生、里山環境の維持、共同作業、食の共有、家族や子どもを含む交流の場づくりを一体的に行っている点にある。コモンズ農園とは理念や射程が大きく異なり、大磯農園はより生活実践や参加型コミュニティに重心を置いた場であるが、それゆえにこそ、将来のコモンズ農園の運営や実践を考えるうえで多くの示唆を与えてくれる。
第一に参考になるのは、農への参加のハードルをできるだけ低くしている点である。大磯農園では、参加者が一坪ほどの区画を借り、道具や種もある程度共有されているため、長靴と軍手があれば比較的気軽に関われる。都市部から週末だけ通う参加者が多いことも、この「入口の低さ」に支えられている。コモンズ農園は、単なる貸し農園ではなく、アートプロジェクトとしての思想性や長期的な関係形成を含んだ、より生成的で複層的な実践である。しかし、その理念が豊かであればあるほど、外部の人にとっては参加の仕方が見えにくくなる可能性もある。大磯農園の事例は、思想や理念とは別に、参加の最初の一歩をどう設計するかが極めて重要であることを示している。コモンズ農園においても、見学、収穫体験、共同作業日、食のイベント、苗木の里親制度など、関わり方に段階を設けることで、多様な人が無理なく入ってこられる構造を考える必要があるだろう。

第二に、大磯農園は農作業そのものだけでなく、食べること、集まること、自然のなかで過ごすことを含めて農園の魅力を構成している。田植えや稲刈りだけでなく、味噌づくり、酒づくり、BBQ、ピザづくり、蛍鑑賞会など、農の営みを季節の楽しみや身体的経験へと開いている。この点は、コモンズ農園にとっても重要である。コモンズ農園は、みかん栽培を核にしながら、対話、滞在、共同作業、記録、学びが交差する場として育てられていくべきものであり、農作業だけに限定されない広がりをもつ。その際、大磯農園のように「農を媒介に人が自然と交わる時間」を丁寧に設計することは、コミュニティ形成において大きな意味をもつ。コモンズ農園においても、収穫や手入れだけでなく、食事会、柑橘加工、香りや風景をめぐるワークショップ、子ども向けの自然観察などを織り込むことで、場の厚みが増していくはずである。
第三に、大磯農園は荒廃農地の再生を活動の根底に据えており、その再生が参加者の体験や喜びと結びついている点が注目される。つまり、社会的に必要な課題解決と、個人にとっての楽しさや充足感が切り離されていない。これはコモンズ農園にとっても大きな示唆である。コモンズ農園が目指すのは、単なる農地利用やイベント開催ではなく、土地に新たな関係性を編み直し、地域の時間や記憶を次世代へ開いていくことである。その実践は、ともすると理念先行で抽象化しやすいが、大磯農園のように「楽しい」「おいしい」「また来たい」という実感と結びつくことで、持続性が高まる。場を維持するには、社会的意義だけでなく、参加者にとっての身体的な魅力と実感が不可欠なのである。
第四に、大磯農園の実践は、運営面や収益面を考えるうえでも参考になる。会費制や体験参加の仕組みを持ち、継続的な参加を促しながら、農園の維持に必要な費用や労力を分散している点は、将来的なコモンズ農園の運営を考える際に重要である。コモンズ農園は営利事業として単純化できないが、長期的に続いていくためには、理念と現実的な運営の両立が求められる。たとえば、会員制度、サポーター制度、イベント参加費、加工品や記録冊子の頒布、滞在型プログラムなど、複数の支え方を組み合わせることが考えられる。大磯農園はその意味で、思想を先鋭化する場というより、継続するための基礎体力をどうつくるかという実践的な知恵を示している。

もっとも、コモンズ農園は大磯農園と同じ方向を目指す必要はない。両者の違いはむしろ重要である。大磯農園が、参加しやすく、暮らしに近く、共同体的な農の楽しさを共有する場だとすれば、コモンズ農園は、農を通して人・土地・時間・記憶・表現の関係を問い直す、より開かれた生成の場である。したがって、コモンズ農園は大磯農園の形式を模倣するのではなく、その運営の柔軟さ、参加導線の設計、共同体形成の実践、農地再生と楽しさの接続、持続可能な仕組みづくりといった点を参照しつつ、自らの独自性を深めていくことが重要である。
大磯農園は、都市近郊における「農のある暮らし」を具体的に実践しながら、人が自然と関わり直す場を育てている。 その姿は、コモンズ農園に対して、思想を現実の場として持続させるための方法、すなわち、どのように人を迎え入れ、どう関係を育み、どう場を継続していくかという実践的課題をあらためて照らし出している。コモンズ農園が今後、アートプロジェクトとしての独自性を保ちながら、より多くの人に開かれた持続的な場となっていくために、大磯農園は有効な参照点のひとつである。
写真:Tartaruga、湘南人ブログより借用
