「Giardini d’Agrumi(ジャルディーニ・ダグルーミ)」は、北イタリア・ガルダ湖畔の町ガルニャーノで毎年開催される、柑橘類と歴史的庭園をテーマにした文化イベントである。湖岸一帯には、16世紀以降に築かれたレモン栽培用の温室建築〈リモナイア〉が点在しており、本企画では通常は非公開の庭園や私有のリモナイアが特別公開される。来場者は、レモンや柑橘の古品種、伝統的な栽培技術、建築的特徴を見学しながら、ガルダ湖特有の温暖な微気候と人々の営みの歴史に触れることができる。
期間中はガイドツアー、音楽や朗読のプログラム、地元生産者による食品や加工品の紹介、ワークショップなども実施され、農業・建築・景観・食文化を横断する総合的な文化的な祭として展開される。柑橘栽培を単なる農産物生産としてではなく、地域の記憶と景観を支える文化遺産として再評価する点に特色があり、自然と人間の長い協働関係を体験的に学ぶ場となっている。ガルニャーノの歴史的環境を背景に、柑橘という植物を媒介に地域のアイデンティティを再発見する催しである。
2025年4月12日にガルニャーノを訪問し、イヴェント参加とリサーチを行った。

Giardini d’Agrumi から見るコモンズ農園
イタリア・ガルニャーノで開催される「Giardini d’Agrumi」は、単なる柑橘の祭典ではなく、地域の記憶と景観を支えてきた歴史的建築「リモナイア= レモンを越冬させるための温室」を再評価し、農業・建築・景観・食文化を横断する総合的なテリトリオ(領域)として提示する試みである。そこでは、レモンという植物が、栽培技術や経済活動を超えて、風土、建築様式、生活文化、さらには地域の誇りやアイデンティティと結びつき、長い時間の中で形成されてきた文化遺産として再定義されている。柑橘は単なる作物ではなく、土地と人間の協働の歴史そのものを可視化する媒体となっているのである。

この視点は、〈コモンズ農園〉の理念に対して重要な示唆を与える。コモンズ農園は、みかんの栽培を軸にしながらも、通過点としての「みかんの展覧会」も構想しており、農業を芸術的・思想的実践へと拡張するプロジェクトである。その根底には、農園を生産の場にとどめず、異なる立場や考えをもつ人々が交差する「フォーム」として開いていく意図がある。Giardini d’Agrumiが示すテリトリオの発想は、まさにこの「農園という名のフォーム」を、より包括的な文化領域へと発展させる可能性を内包している。
リモナイアは、湖畔という北限に近い土地で柑橘を育てるための建築的工夫であった。自然条件に対する人間の応答が、独自の景観を生み、それがやがて文化遺産へと昇華していった。そのプロセスは、コモンズ農園における実践にも重なる。和歌山の風土の中でみかんを育てることは、単なる地域農業の継承ではなく、気候変動や人口減少といった現代的課題への応答でもある。もし農園の活動が、栽培技術だけでなく、周囲の景観設計、滞在の場の構築、食や香りを含む感覚的体験の共有へと広がっていくならば、それは一つの現代的リモナイア、すなわち思想的・社会的温室として機能しうるだろう。


さらに、Giardini d’Agrumiが私的庭園を公開し、音楽や朗読、ガイドツアーを通じて複層的な体験を創出している点も示唆的である。そこでは農業と芸術、観光と学びが分断されず、一体的な文化経験として編まれている。コモンズ農園もまた、将来的にみかんの展覧会を開催する構想を持つが、その展覧会は単なる成果発表ではなく、農園そのものを舞台とした時間芸術へと発展し得る。収穫、剪定、発酵、食、香り、対話といったプロセスを公開し、地域の記憶や未来への想像力を交差させる場とすることで、農園は展示空間であり、研究所であり、コミュニティの交差点となる。

テリトリオという考え方は、境界を固定せず、関係性によって拡張する領域を意味する。コモンズ農園にとって重要なのは、所有や管理の枠を超え、土地を共有的な思考空間へと転換することである。みかんの木は、その中心に立つ存在でありながら、同時に他者を招き入れる媒介でもある。香りや味覚を通じて人々の身体を開き、哲学や倫理へと接続する契機ともなり得る。ここにおいて農業は、経済活動であると同時に、感覚と思想を耕す営みへと変容する。
Giardini d’Agrumiが示す未来像は、過去の遺産を保存するだけでなく、それを現在の文化活動として再活性化する点にある。同様に、コモンズ農園の未来は、伝統的なみかん栽培を守ることだけでなく、それを媒介に新たな社会的想像力を育てることにあるだろう。十年後の「みかんの展覧会」は、その象徴的な節目であるが、それは終着点ではなく、地域と世界を結ぶ長期的な対話の通過点にすぎない。

リモナイアがそうであったように、コモンズ農園もまた、自然と人間の協働の痕跡を未来へ手渡す構造体となり得る。農業・建築・景観・食文化・芸術が交差する総合的なテリトリオとして成熟していくとき、そこには単なる農園を超えた、思想と実践の共有地としての可能性が開かれているのだろう。
*本リサーチは、公益財団法人小笠原俊晶記念財団の助成により実施されました。
写真:Tartaruga, Pro Loco Gargnano
