みかんダイアローグ (抄録)


みかんダイアローグ Vol.3 『みかんトーク-紀南のみかん農家に聞く-』
2022年8月5日(金)19:30〜20:30オンライン(撮影会場:秋津野ガルテン)
聞き手:藪本 雄登(「紀南アートウィーク」実行委員長) 

就農者がなかなか増えないなか、地元でみかん農業を親から引き継いだ若手農家たちはどんなことを考えているのだろうか。そこでは、生業として農業を続けていく難しさや技術や経験をどう継承し新しくしていくことができるのかといったことが生々しく語られるだけでなく、植物や自然を注意深く観察する態度とそうした経験がとても興味深く語られている。

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小谷大蔵さん(農家)
8年前、子供が生まれたのをきっかけに家業である農業を引き継ぐ。柑橘をはじめ、梅、米、野菜をJAや直売所にて販売。荒廃園地を再生して果樹の種目を増やすなどし、積極的に園地の拡大を図っている。今後の目標は、後継が作業しやすい園地を作っていくこと!

鈴木秀教さん(農家・料理人)
田辺市下万呂で柑橘を中心に梅、米、野菜 (枝豆、さつまいも、ハバネロ等) を栽培。元ホテル料理人。自らトラックを塗装し、今年の2月からキッチンカー「PEASANT KITCHEN SÛ (ぺザント キッチン スー) 」という名でスイートポテト等の販売を開始。自分たちの手で「生産・加工・販売」全てが補えるスタイルを模索しながら日々研究を重ねている。

野久保太一郎さん(果物農家)
上秋津にある十秋園 (とあきえん) の5代目園主。30種類の柑橘、梅、キウイ等を栽培。三重県の鈴鹿サーキットに勤務していたが、24歳の時、心境、環境の変化により帰郷。現在では、田辺市の「関係人口」創出のため、都会からの農業体験者を受け入れたり、地元のうなぎ店とタッグを組み「うなぎの骨」を再利用したオリジナル肥料を製造したりと、枠にとらわれない農業スタイルを邁進中。

松下真之さん(みかん農家)
高校卒業後、大阪・和歌山の地元スーパー「松源」に入社し、日常の業務を行いながら社会人野球のチームで活躍。そのあと、和歌山県田辺市の上芳養にある実家、松下農園で家業を手伝っている。農園の経営をされている父親と二人三脚で、みかんや梅の畑作業を勤しんでいる若手農家。



●紀南の地理と農業の特色

藪本:紀南では、みかんの生産が減っているということを聞いたのですが、それは本当なのでしょうか。

松下:そうですね。ほとんどの地域で減っているのではないでしょうか。うちのところも、もともとみかんがメインだったんですけど、梅の方がお金になるし、みかんは手間がかかり梅の方が成長も早いので、植え替えのタイミングで梅に変えています。

鈴木:手間はかかりますよ。世話する期間が長いです。お金になるまで時間がかかる。植えてから10年くらいは安定した収穫はできないですね。

野久保:そうですね。みかんで頑張っている農家が多いから、必然的にみかんをやっています。それでも、2、30年くらい前から梅の方が価格がいいので、暮らしを追い求めて梅栽培をする、という人も増えています。それでも柑橘を作っている人というのは、だんだんプロフェッショナル化していっていますね。秋津野ではみかんをしっかり作っていくのではないでしょうか。

野久保:ぼくが就農したのは22、3年前ですけど、当時はみんな梅か温州みかんと晩柑の数種類だけだったんです。でも、リスク分散のために毎月収入を得られるようにしよう、という話になって種類を増やしたんですよ。
おかげさまでうちでは30何種類かの柑橘を作っているんですけど、毎月収入があるということは、毎月世話をしないといけないし、並行する作業がすごく増えてしまったんですよね。だんだん自分で自分の首を絞めているような感覚がします(笑)。最近はどうしようか悩み中です。種類をまとめて減らしながら、新しい品種を増やしていこうかと。
20年前に植えた温州みかんが、今、主力になってきました。20年以上積み上げてきたものの結果が出てよかったな、といった感じですね。

●みかんの技術伝承

藪本:もうひとつの質問なのですが、「技術伝承」は、どうやって行われているのでしょうか。今回、私がフィールドワークをする中で知ったのは、地域ごとの横のつながりがあまりないな、ということです。
地域ごとにどういう形で伝承されているのか、周りの農家との関係はどうなのか、などが知りたいですね。あまり近づかないようにして技術を守っているのかなとか思ったりするのですが、そのあたりどうでしょうか。独自の技術が受け継がれていると思う反面、あまり交流がなさそうだな、と思うのですが。

野久保:教科書的なことは、農協がやってくれている講習会でだいたい教わります。あとは家庭で父親が師匠になって教えてくれます。あとは自分たちと同じような世代の農協の青年部で勉強会をしますね。
地区を飛び越えて横でつながるというのはなかなかないですね。だから僕も今日の参加者のお三方とも初めて会いましたよ。
土地の違いは大きくて、自分のところの畑の中でも違います。わずか10メートル違うだけでも変わってきますし、木の1本1本が違います。
標高で違いが分かれてくるかな。大坊地区(*)なんかはそれを特徴として利用していますよね。標高が高いから年をまたいで完熟みかんを作っています。
技術じゃないですけど、うちは3年前くらいから自分の土地に合った肥料を作りたくて、地元のうなぎ屋が廃棄しているうなぎの骨を使って、再生肥料をやっています。ただ、肥料ひとつで味が変わるものでもないので、難しいですね。「うなぎの骨を使ったみかん」というブランド化はしたかったんですけど、どうしてもそれが味に出てこないんですよ。まだ3年目で、6、7回肥料をやっただけなんですけど、結果は出にくいですね。土地というのは深いし、難しいです。

(*)大坊地区・・・大坊みかん(おおぼうみかん)は、和歌山県田辺市芳養町(はやちょう)大坊地区(おおぼう ちく)で栽培されるウンシュウミカンのブランドである。その特徴は、他の多くの早生温州が12月までに収穫・出荷を終えてしまうのに対し、木に実を付けたまま熟成させて1月を過ぎてから収穫する点にある。(参考:Wikipedia)

●みかん農家の思考について

藪本:就農されてから植物全体に興味を持つようになりましたか。木や根や土を見るようになったとか。

野久保:そうですね。結果は「みかん」として出来上がるんですけど、「どういうふうに木を育てていこうか」を考えますね。「実」を育てるというよりは「木」を育てる、というように変化しました。
対外評価として「糖」の「~度以上」というブランドが出来上がっているので、「糖度」を追い求めてしまうのは仕方がないところかと思いますね。
ただ、甘いだけじゃなくて、食べたらおいしいというのが大事ですね。
「おいしいみかんを作るために糖度を上げるのか?」
「糖度が高ければおいしいみかんなのか?」というのは、一つの問いですね。
直売では「糖度」を表示してないですね。直売では「あの人のものだから買いたい」「あそこの農園のものだから買いたい」という基準で選ばれていますからね。

鈴木:名前で選ばれますね。

野久保:そうですね。それに対してスーパーでは、「糖度」を基準にしたブランドで選ばれます。直売所では、農園のファンに選んでもらえますからね。

鈴木:やっぱり農園によって少しずつ味が違うんですよね。

野久保:皮の厚さが違うとかね。そこに謎のおいしさが加わるんですよね。

鈴木:そうそう。

藪本:糖度を上げようとすると、樹木に負担がかかるんですよね。マルチを増やしているところを見ると、木をイジメているような感じがするのですが。

鈴木:そうなんですよ。なんだか虐待しているみたいなんですよね。

藪本:甘さを出そうとすると木に負荷がかかって、結局木がもたなくなるのではないか、という気がします。

野久保:その通りですね。

松下:ケアが大事ですね。

野久保:ケアもしてあげないといけないのだけれど、ケアまでしてあげる時間の確保が難しいですね。

藪本:接ぎ木にすごく興味があります。植物は人間とは全然違う存在なんだと感じます。人間は、細胞が移転するので、「接ぎ指」とかできないですよね。でも、植物の場合って、藪本の木に松下がくっついてくる、ということが成り立つわけですよね。

野久保:簡単に品種転換できるので、すごく便利ですね。接ぎ木を早めにやってしまえば、来年、再来年にはそれなりにいい枝になるんですよ。

鈴木:収穫ができるまでが早いです。でも、枯れるのも早くなります。

藪本:あまり人気がなくなってきた品種を差し替えたりするわけですか。

小谷:そうですね。

藪本:その時みかんって、どう思っているんでしょうね。

松下:びっくりしてると思うよ(笑)。

鈴木:前向きに受け止めてくれたらいいですけどね。

野久保:新しい品種をダメな木に差し替えて増やしていけるのでいい技術ですが、問題は寿命が短くなることですね。1回切っているし、根にも多少ダメージがあります。

みかんの新しい可能性

野久保:秋の空にみかんが映えるんですよ。すごくきれいです。木自体は太陽に向かって伸びていて、みかんは木の上に実る果物ですからね。みかんは空と合いますよ。太平洋側は冬でも空が青いですし。

藪本:確かに、西洋の世界ではみかんは「太陽」の象徴として捉えられています。「柑橘類と文明」という本にも書かれていますね。(ヘレナ・アトレー「柑橘類と文明: マフィアを生んだシチリアレモンから、ノーベル賞をとった壊血病薬まで」築地書館、2015)
逆に、みかんを育てられなくなって、技術を他のことに転用しないといけない可能性とかはないでしょうか。

小谷:考えますよ。気温がすごく上がってきていますからね。

鈴木:みかんの日焼けがここ数年ひどいですね。

小谷:木の上のみかんが太陽の光で焦げるんですよ。水分が蒸発して真っ黒になるんです。燃やして焦げる感じとはちょっと違うんですけどね。

野久保:品種改良とかね。今のみかんは昭和30~40年に品種改良してできたみかんです。今の気温に合わせるとしたら、「日焼けに強い」みかんを開発していかないといけないのではないでしょうか。

藪本:そういった技術開発って、自分たちでできるものでしょうか。

野久保:違う品種同士を受粉させて、できたものを植えて結果を見るということを繰り返して、20年くらいかかるでしょうね。

藪本:みかんの山の景観を見ると素晴らしいな、と感じますが、そこはもう当たり前の風景でしょうか。

松下:たまに感じます。どこかから戻ってきたときとかは感じるかな。

野久保:田辺って、海も近いし、紀伊山地もあるし、起伏があるからすごく景色がいいと思います。

藪本:コメント欄の方に質問が来ているようですね。「糖度の話がありましたが、逆に酸味に振り切ったみかんを作れるんですか。甘いみかんより酸味のあるみかんの方が好きなので、酸っぱいみかんを食べたいです。」

野久保:すばらしい!(笑)。品種によっては酸味の高いみかんというのがありますね。それを普通に作るというか、甘味はあっても酸っぱくさせるやり方というのもありますね。

藪本:どうしたらいいのですか。

野久保:水の量を調整します。もともと酸が高いところに水を増やすと、糖度が上がらず相対的に酸っぱく感じるかと。

藪本:水を切ると糖度が上がるので、その反対ということですね。

野久保:けっこう「甘い、甘い戦争」で、酸味があるみかんは淘汰されてきているんですね。逆にそこを求めてくれる人がいれば、昔の品種を復活させることもできます。

藪本:私は八朔が一番好きです。ところで、さっきの理論でいうと、酸味の高いみかんは値段が下がるのでしょうか。

野久保:農協などの市場流通では価格が下がったりしますね。現金を多くもらおうとすれば、糖度の高いみかんを作ることになります。
ただ、酸味が高いものが欲しいという方もいらっしゃるので、そういう方は、直売所巡りをしていただけると、ご自身に合ったみかんが見つかるのではないでしょうか。
そういうのも楽しいと思いますよ。静岡や愛媛、和歌山、佐賀、長崎などの直売所を巡って「私の好きな酸味のあるみかん」を探す旅もおもしろかもしれませんね。

根について

藪本:最後に聞きたいのは、「根」についてです。古事記で熊野は「根の堅州国」と表現されていて、「根」について考えるには最適な場所なんですよね。「根の国」はスサノヲを祀っていると言われているのですが、皆がどのように「根」をとらえているのかを教えてください。
たぶん、剪定の技術とかにもつながっているのではないでしょうか。枝の動きと根の動きはつながっているんですよね。

小谷:枝が伸びたところまでは、根も広がっていますね。

野久保:「土がガチガチやけど、ちゃんとこの下根っこ生えてんのかな」とか、土の固さで根っこを見たりしますね。さっき小谷が言われていたように、木の一番遠い外周の木の枝まで根が広がるので、これをどうやって活かすかな、とか考えますね。夏は気温も高いので、マルチで根っこを守ってあげるやり方もあります。
マルチはストレスをかけて水分を減らす「水分ストレス」という方法に使われてきましたが、最近は夏場にマルチを敷いた方が採光から守れるという使い方もされています。日傘をさしてあげる感覚でしょうか。
野菜なら掘り起こせば土の中のすべてが見れますが、樹木なので、根っこの世界は想像でしか見られません。根っこを見るのは最初に植える時だけですね。もう「土の世界」におまかせです。
畑を耕すことができないので、表層に細かい根っこをふやしていこうとしたら、別の土を乗せていくことになりますね。

藪本:小さい根でも通れるようにということでしょうか。根は横に伸ばすと果実は良くなるのですよね。それはどうしてでしょうか。

野久保:直根(※)ばかり伸ばすと、そこで水ばかり吸うようになってよくないんです。細根が枯れてしまうと、直根ばかりが水を吸うことになります。木は育つのですが、果実としてはよくないですね。

(※)直根・・・種子から初めて真下に伸びた根のことを指す。この根が下に伸びる力で幹は高くかつ太くなる(参照:コトバンク)

鈴木:大きいカチカチの木だけができることになりますね。