ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ(神奈川県箱根町)

ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズは、フラワーアーティスト、ニコライ・バーグマンが手がける体験型ガーデン施設であり、自然とデザインを融合させたランドスケープ空間である。箱根の豊かな自然環境を背景に、四季折々の植物と現代的な造形感覚を組み合わせ、単なる観光庭園ではなく「歩くことで感じる風景」として構成されている点に特徴がある。
園内には芝生広場や花畑、林間の小径、フラワーインスタレーションが点在し、四季の変化を軸とした空間設計がなされている。春の花畑、夏の緑陰、秋の紅葉、冬の静謐な景色へと表情を変え、訪れる者は視覚のみならず嗅覚や触覚を通して自然を体感することができる。また、カフェやショップを併設し、自然の中で滞在する時間そのものをデザインしている点も特徴の一つである。
自然の地形や既存植生を活かしながら、明確なコンセプトのもとに編集された空間は、ランドスケープとアート、商業性を横断する新しいガーデンのあり方を提示している。

2025年3月16日、ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズを訪問した。

庭園入り口のレセプション



〈ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ〉から考えるコモンズ農園

ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズの最大の特徴は、「自然を素材として編集する」という姿勢にある。本訪問は、コモンズ農園におけるデザイン性およびランドスケープの可能性を検討するために行ったものである。ガーデンズでは、植物や地形は単なる背景ではなく、明確なコンセプトに基づいて配置され、空間全体が一つの作品として設計されている。色彩計画は季節ごとに構想され、視線の抜け、高低差、歩行導線に至るまで意識的にデザインされているため、来場者は無意識のうちに風景の構造を体験することになる。この「編集された自然」は、人工的でありながら自然の生命力を損なわず、むしろそれを強調するという両義的な魅力を備えている。

回遊式の階段の傾斜やすれ違うことも可能な道幅など歩行しやすサイズとなっている


また、ランドスケープ全体に統一された造形言語が貫かれている点も重要である。サイン計画、建築要素、植栽デザインが一体化し、ブランドの世界観が空間全体に浸透している。その結果、訪問者は庭を「鑑賞する」のではなく、世界観の中に「没入する」体験を得る。さらに、フォトジェニックな視点場の設計や季節ごとの演出は、継続的な来訪動機を生み出す装置として機能している。

縁石は庭園にある自然素材を利用し、周辺との自然との一体化を図る
庭園内の建物、椅子、階段などが黒に統一されたデザインになっている

これらの点は、田辺市で展開されている〈コモンズ農園〉の今後の発展においても示唆的である。コモンズ農園が目指す「農園という名のフォーム」が、単なる農地ではなく異なる立場の人々が交差する場であるならば、その空間構成にも明確な景観的編集が求められる。例えば、みかん畑の列植や収穫動線を意識的に設計し、滞在のリズムを生み出すこと、あるいは「未完成マップ」の思想をランドスケープに反映させ、時間とともに変化する構造を可視化することが考えられる。

庭園内の園路の上には、自生する熊笹や木の表皮を粉砕した素材が敷き詰められており、雨天でも歩行しやすい配慮がなされている。


同時に、箱根ガーデンズのように「自然とブランドの統合」を図るのではなく、コモンズ農園ではむしろ「多声的で未完であること」を前景化することが差異化の鍵となる。整えすぎない余白や作業の痕跡、対話の場としてのベンチや小屋などを景観の一部として位置づけることで、農とアート、哲学的思索が重なり合う場を形成できる。参考とすべきは完成された美そのものではなく、「自然をいかに構造化し、体験として提示するか」という設計思想である。箱根ガーデンズが示す編集力と統一感は、コモンズ農園においては「関係性のデザイン」として再解釈されうる。その応用可能性は、将来的な〈みかんの展覧会〉構想においても、風景そのものを展示空間へと転換するための重要な視座を与えている。

ランチ用のバスケット。庭園内の好きな場所でランチが食べられるようにバスケットも用意されている
庭園内に点在する温室。周遊道のポイント地点に
母屋のカフェとガーデン内のフラワーショップの間を繋ぐデッキ
冬になると枝が鮮やかな赤色に染まるサンゴミズキ。自生する熊笹と赤色のコントラストによって冬枯れの庭園を鮮やかにする。

*本リサーチは、公益財団法人小笠原俊晶記念財団の助成により実施されました。

写真:Tartaruga