
コモンズ農園プロジェクトは、土地と植物と関わる農業の実践を通して、人と人、人と自然が出会います。土に触れ、苗を植え、枝を剪定し、実を収穫する。うまくいく年もあれば、思い通りにならない年もあります。そうした揺れ動く時間のなかで、人は自然と対話し、自分自身とも向き合います。私たちが大切にしているのは、成果や効率ではなく「時間」です。
コモンズとは土地や資源の共有ではなく、ここでは「関係の共有」を意味します。異なる背景や価値観を持つ人々が出会い、協働するプロジェクトです。
〈コモンズ農園〉はなぜアートなのか?
コモンズ農園は農業プロジェクトでありながら、同時にアート・プロジェクトでもあります。私たちが考えるアートとは、異なる者たちのあいだに置かれるものです。同じ価値観を共有する人が集まって「美しい」と感じるためのものではありません。むしろ、誰かが作り出したものを前にして、共感や違和感を手がかりに語り合う対話と急がず向き合う時間を生み出すもの、それがアートだと思います。もしアートがこれからの社会においても必要とされるとすれば、それは、結論を急がず、異なる他者を理解しようとする「時間」と「関係」のかたちを育てるからではないでしょうか。
農業は食を支える欠かせない営みですが、その現場には労働力や気候変動といった課題が横た
わっています。だからこそ、そこは社会と切り離された場所ではなく、多様な立場の人々が集まり、未来について考える開かれた場になり得ます。土地を耕し、生き物とともに生きる農家たちの知恵や経験は、私たちが未来を考えるための大切な資源でもあり、多くの実践的な学びを提供してくれます。

「みかんの旅」農園
この農園は2022年の和歌山県田辺市近隣でおこなわれた紀南アートウイークへの参加がきっかけで誕生しました。女性三世代にわたり受け継がれてきたみかん畑。遠くに海を望む、美しい傾斜地です。農園の名前は「みかん(未完)の旅」。人が関わり、変化しながら続いていく時間。その循環の過程を「旅」と呼んでいます。
ここには完成図はありませんので、計画よりも応答、成果よりも過程が重視されます。その
時々の必要や発想から、小さな場所が、自然の中に溶け込むようにつくられていきます。映画を見る場所、泊まる場所、本を読む場所、何もしない場所。それぞれは小さく、すべてが揃うこともありません。風景や活動に応じて、変わったり、なくなったりすることもあります。自然を手なづけるための農業ではなく、自然と共生する農業は可能なのでしょうか。私たちが大切にしたいのは、成果や効率ではなく、急がず、長い時間をかけて自らの感性を大事にすることで、それによって関わる人たちの物語が紡がれます。


柑橘と風景
畑には八朔、温州みかん、レモンなど、多様な柑橘が育っています。同じ品種であっても、木ごとに育ち方は違います。収穫の喜びだけでなく、手入れの手間や、うまくいかない経験もまた、この農園の大切な時間です。園内にはウッドデッキ、展望台、温室、野菜ガーデン、本の部屋、宿泊施設などが点在していくでしょう。それらは主張しすぎることなく、風景のなかに静かに置かれています。時間とともに、植物と建物、人の記憶が重なり、風景は少しずつ変化していきます。
八朔の木/ 橙の木/ ウッドデッキ(イベント・スペース)/ オフィス/ 宿泊施設/ 展望台/ スクリーン/本の部屋/ ホワイトスペース/ 野菜ガーデン/ 温室/ 温室/ 倉庫/ トイレ/八朔、温州みかん、レモンなど多品種の柑橘類 / トロピカル・ガーデン /


農園のこれから
この土地から、これからどんな活動が生まれるでしょうか。農作業。野外上映会。星を見上げる夜。小さな展示。静かに本を読む時間。食べること、眺めること、眠ること、語り合うこと。何もしない時間さえも、ここでは大切な営みです。コモンズ農園は、それぞれが自分の言葉で振り返ることのできる体験を重ねていきます。ここは、土地と植物と人がともに時間を分かち合う場所。そして、未来のあり方を静かに問い続ける場所です。
野外上映会のための、ひらけた場所。一日一組だけが泊まれる、小さな宿。柑橘について知るための、キューブ型の本の家。道具を置くだけの小屋。何も置かれていない、空(から)の空間。景色を眺める場所。食べること、眺めること、眠ることも、農園の時間の一部です。


